ma=Fでおなじみの運動方程式はデカルト座標系(2次元平面のX-Y座標のやつ)や極座標系で表現が変わったりする。それはとてもややこしい。また、ベクトルであるため、基準をどこにとるのか問題も発生する。そんなデメリットを解消するのがラグランジュの運動方程式。これは運動をベクトルではなく、エネルギーのスカラーで表現している。そのため座標によらないのがメリット。
今回はそのラグランジュの運動方程式を導出する。
運動エネルギーと運動量の関係
運動エネルギーは次のように定義される。
\begin{gather}
T = \frac{1}{2}m\dot{x}^2=T(\dot{x}) \tag{1}
\end{gather}
そして質点の運動量$p_{x}$は、
\begin{gather}
p_{x} = m\dot{x} \tag{2}
\end{gather}
と表せる。この運動エネルギーと運動量の関係は以下のように表現できる
\begin{gather}
p_{x} = \frac{dT(\dot{x})}{d\dot{x}} \tag{3}
\end{gather}
言葉でいうと、「運動エネルギーを速度で微分すると運動量になる」、ということである。
ここで、
\begin{gather}
\frac{d}{d\dot{x}}(\frac{1}{2}m\dot{x}^2)=x\dot{x} \tag{4}
\end{gather}である点に注意する。
一般座標
座標はいくつか考えられる。デカルト座標系や極座標など。ここではそれらを限定することなく、より一般化した「一般座標」$q$というのも考える。
デカルト座標系や極座標系を包含する座標系である。
デカルト座標$x$と一般座標$q$の関係は次のようなる。
\begin{gather}
q = q(x)
\end{gather}
または反対に、
\begin{gather}
x = x(q)
\end{gather}ともいえる。
これらは座標変換、変数変換ととらえるとわかりやすい。
より一般的な式にするために時間も取り入れると
\begin{gather}
q = q(x,t)\\
x = x(q,t) \tag{5}
\end{gather}
と表せる。
一般速度
一般座標$q$の時間微分$\dot{q}$を一般速度という。(5)式を合成関数の微分法を用いて微分すると
\begin{gather}
\dot{x} = \frac{dx(q,t)}{dt} = \frac{\partial x}{\partial q}\frac{\partial q}{d t}+\frac{\partial x}{\partial t}\frac{\partial t}{dt}=\frac{\partial x}{\partial q} \dot{q}+\frac{\partial x}{\partial t}\tag{6}
\end{gather}
のように表せる。
速度$\dot{x}$は$\dot{q}$だけでなく、$q$と$t$にも依存していることがわかる。したがって、
\begin{gather}
\dot{x} = \dot{x}(q,\dot{q},t) \tag{7}
\end{gather}
と書ける。
(7)式を使って式(1)を書き直すと、
\begin{gather}
T(\dot{x}) = T(q,\dot{q},t) \tag{8}
\end{gather}
となる。
(8)式の意味は、左辺の$T(\dot{x})$の値と、右辺の$T(q,\dot{q},t)$は各点で同じになるという意味
デカルト座標でいう点は一般座標という拡張した概念であっても同じ位置を示すという解釈。
一般運動量
デカルト座標で表した(3)式、$p_{x} = \frac{dT(\dot{x})}{d\dot{x}}$の運動量$p_{x}$と、運動エネルギー$T(\dot{x})$の関係式を一般速度$\dot{q}$に拡張して、一般運動量という量を
\begin{gather}
p = \frac{\partial T(q,\dot{q},t)}{\partial \dot{q}} \tag{9}
\end{gather}
で定義する。(8)式の$T(\dot{x})=T(q,\dot{q},t)$に注意すると、式(9)は
\begin{gather}
p = \frac{\partial T(\dot{x})}{\partial \dot{q}} = \frac{dT(\dot{x})}{d\dot{x}}\frac{\partial \dot{x}}{\partial \dot{q}}=p_{x}\frac{\partial \dot{x}}{\partial \dot{q}} \tag{10}
\end{gather}
式(10)の$\frac{\partial \dot{x}}{\partial \dot{q}}$について以下の関係式用いる。
\begin{gather}
\frac{\partial \dot{x}}{\partial \dot{q}} = \frac{\partial x}{\partial q} \tag{11}
\end{gather}
そうすると(9)式は次のように表せる。
\begin{gather}
p = p_{x}\frac{\partial x}{\partial q} \tag{12}
\end{gather}
式(12)は、一般運動量$p$と運動量$p_{x}$を結びつける重要な式。
$p$と$p_{x}$の違いは一般座標$q$とデカルト座標$x$との座標変換である式(5)で決まる。
($q = x$であれば$\frac{\partial x}{\partial q} = \frac{\partial x}{\partial x}=1$であり、当然$p = p_{x}$)
一般運動量の時間微分
(12)式、一般運動量$p$の時間微分を求める。
運動方程式に従えば、運動量の時間微分は力である。
\begin{gather}
\frac{dp}{dt} = \frac{d}{dt}(p_{x}\frac{\partial x}{\partial q})=(\frac{dp_{x}}{dt})\frac{\partial x}{\partial q}+p_{x}(\frac{d}{dt}\frac{\partial x}{\partial q})
\end{gather}
ここで$(\frac{dp_{x}}{dt})\frac{\partial x}{\partial q}$は$F_{x}\frac{\partial x}{\partial q}$と書ける。なぜなら、運動量は$p_{x}=m\dot{x}$でその時間微分が$F_{x}$だからだ。
2項目の$p_{x}(\frac{d}{dt}\frac{\partial x}{\partial q})$は、$t$による微分と$q$による微分の順序を変えても偏微分の結果は変わらない性質を活かして次のように変形できる。
\begin{gather}
\frac{d}{dt}(\frac{\partial x}{\partial q})=\frac{\partial }{\partial q}(\frac{dx}{dt})=\frac{\partial \dot{x}}{\partial q}
\end{gather}
そして(3)式の$p_{x} = \frac{dT(\dot{x})}{d\dot{x}}$より、
\begin{gather}
p_{x}(\frac{\partial \dot{x}}{\partial q})=\frac{dT(\dot{x})}{d\dot{x}}(\frac{\partial \dot{x}}{\partial q})=\frac{\partial T}{\partial q}
\end{gather}
したがって(12)の時間微分(一般運動量の時間微分)は、次のようになる。
\begin{gather}
\frac{dp}{dt} = F_{x}\frac{\partial x}{ \partial q}+\frac{\partial T}{\partial q} \tag{13}
\end{gather}
一般力と見かけの力
一般運動量の時間微分(13)式の右辺一項目を
\begin{gather}
Q_{x} = F_{x}\frac{\partial x}{\partial q} \tag{14}
\end{gather}
と置いて、一般力$Q_{x}$と定義する。
この一般力を使って式(13)を書き換えると
\begin{gather}
\frac{dp}{dt}=Q+\frac{\partial T}{\partial q} \tag{15}
\end{gather}
と表せる。
この式(14)の$Q_{x}$と$F_{x}$との差は、$\frac{\partial x}{\partial q}$から来ていることがわかる。
一方で式(15)の2項目の成り立ちを見ると$\frac{\partial T}{\partial q}$のもとは$p_{x}(\frac{d}{dt}\frac{\partial x}{\partial q})$である。
もし$\frac{\partial x}{\partial q}$が一定であれば時間微分は0で、この項は消える。
そのため、この2項目が現れる野は、$\frac{\partial x}{\partial q}$が一定でない場合である。
つまりこの力は、デカルト座標系$x$と一般座標$q$が単純に比例するとき($\frac{x}{q}$=一定のとき)には現れない。
このような座標の選び方によって出現したり、しなかったりする力を見かけの力という。つまり$\frac{\partial x}{\partial q}$は見かけの力である。
ラグランジュの運動方程式
解析力学はスカラー量で運動方程式を表すため、
式(15)の左辺を運動量から運動量エネルギー$T$に書き換える。((9)式を用いる)
\begin{gather}
\frac{d}{dt}(\frac{\partial T(q,\dot{q},t)}{\partial \dot{q}})=Q+\frac{\partial T}{\partial q} \tag{16}
\end{gather}
ここからは、式(16)を用いて、式(14)の$F_{x}$が保存力の場合と保存力+非保存力の場合に分けて導出を行う。
力$F_{x}$が保存力$F_{c,x}$だけの場合($F_{x}=F_{c,x}$)
保存力とはポテンシャルエネルギー$U$から導かれる力である。
保存力を$F_{c,x}$で定義しこれに対する一般力を
\begin{gather}
Q_{c,x} = F_{c,x}\frac{\partial x}{\partial q} \tag{17}
\end{gather}
で定義する。
ポテンシャルエネルギーが$x$のみに依存する場合と$\dot{x}$にも依存する場合で分けて導出を行う。
ポテンシャルエネルギーが座標$x$だけに依存する場合($U = U(x)$)
保存力$F_{c,x}$とポテンシャルエネルギー$U$の関係は
\begin{gather}
F_{c,x} = -\frac{dU(x)}{dx} \tag{18}
\end{gather}
で定義される。
この式(18)を式(17)に代入すると
\begin{gather}
Q_{c,x}=\frac{dU(x)}{dx}\frac{\partial x}{\partial q}=-\frac{\partial U(x)}{\partial q}=-\frac{\partial U(q)}{\partial q} \tag{19}
\end{gather}
ここで$U(q)$は正確には$U(x(q))$
デカルト座標$x$のみではなく、より一般化した座標$q$で考えるイメージ。
$U(q)$は各点で$U(x)$と同じ値をとる。同じ関数という意味ではない。
ポテンシャルエネルギーが$U(q)$の場合、式(19)の$Q_{c,x}$をスカラー方程式、式(16)すると、式(16)は、
\begin{gather}
\frac{d}{dt}(\frac{\partial T(q,\dot{q},t)}{\partial \dot{q}})=-\frac{\partial U}{\partial q}+\frac{\partial T(q,\dot{q},t)}{\partial q}\tag{19.5}
\end{gather}
ここで右辺の$q$による微分の項を別々に考えないと
\begin{gather}
\frac{d}{dt}(\frac{\partial T}{\partial \dot{q}})=\frac{\partial (T-U)}{\partial q} \tag{20}
\end{gather}
このように$T-U$を一つの関数にまとめることができる。
そこでラグラジアンというスカラーの関数を
\begin{gather}
L(q,\dot{q},t) =T(q,\dot{q},t)-U(q) \tag{21}
\end{gather}
で定義すると、式(20)の左辺の$\frac{\partial T}{\partial \dot{q}}$も$\frac{\partial L}{\partial \dot{q}}$に置き換えることができる。
なぜならば、$\frac{\partial U}{\partial \dot{q}}=0$のために、
\begin{gather}
\frac{\partial L}{\partial \dot{q}}=\frac{\partial (T-U)}{\partial \dot{q}}=\frac{\partial T}{\partial \dot{q}}-\frac{\partial U}{\partial \dot{q}}=\frac{\partial T}{\partial \dot{q}} \tag{22}
\end{gather}
になるためである。
したがって、式(20)は次のように表せる。
\begin{gather}
\frac{d}{dt}(\frac{\partial L}{\partial \dot{q}})=\frac{\partial L}{\partial q} \tag{23}
\end{gather}
ポテンシャルエネルギーが速度$\dot{x}$にも依存する場合($U=U(x,\dot{x})$)
物体に働く保存力が速度に依存する場合、保存力$F_{c,x}$は、
\begin{gather}
F_{c,x}=-\frac{\partial U(x,\dot{x})}{\partial x} \tag{24}
\end{gather}
と偏微分の形で表される。
先ほどの、ポテンシャルエネルギーが座標$x$のみに依存する場合と同様に式(17)に代入して一般力$Q_{c,x}$を求めると
\begin{gather}
Q_{c,x} = -\frac{\partial U(x,\dot{x})}{\partial x}\frac{\partial x}{\partial q} = -\frac{\partial U(x,\dot{x})}{\partial q}=-\frac{\partial U(q,\dot{q})}{\partial q}
\end{gather}
となり、一般力は一般速度に依存することがわかる。
そこでポテンシャルエネルギーが$U(q,\dot{q})$の場合にラグランジュ運動方程式である式(23)が成り立つような一般力$Q_{c,x}$がどのような形であるか考える。
この問題を簡単に得るためにラグラジアン式(21)の$U(q)$を次のように、$U(q,\dot{q})$に置き換え、
\begin{gather}
L(q,\dot{q},t)=T(q,\dot{q},t)-U(q,\dot{q}) \tag{25}
\end{gather}
が式(23)の$L$であると仮定する。そうした場合式(23)は次のように表現しなおせる。
\begin{gather}
\frac{d}{dt}(\frac{\partial L}{\partial \dot{q}})=\frac{\partial L}{\partial q}\\
\frac{d}{dt}(\frac{\partial (T-U)}{\partial \dot{q}})=\frac{\partial (T-U)}{\partial q}\\
\frac{d}{dt}(\frac{\partial T}{\dot{q}})-\frac{d}{dt}(\frac{\partial U}{\dot{q}})=\frac{\partial T}{\partial q}-\frac{\partial U}{\partial q}\\
\frac{d}{dt}(\frac{\partial T}{\dot{q}})=\textcolor{red}{-\frac{\partial U}{\partial q}+\frac{d}{dt}(\frac{\partial U}{\partial \dot{q}})}+\frac{\partial T}{\partial q}\tag{26}
\end{gather}
式(16)と照らし合わせると赤色のところが$Q$とおけばよいことがわかる。つまり、
\begin{gather}
Q_{c,x}=-\frac{\partial U(q,\dot{q})}{\partial q}+\frac{d}{dt}(\frac{\partial U(q,\dot{q})}{\partial \dot{q}})\tag{27}
\end{gather}
もし$U(q,\dot{q})$が$U(q)$であれば$\frac{\partial U(q,\dot{q})}{\partial \dot{q}}=0$となるので式(27)の2項目は消えて式(19)になる。
力$F_{x}$に保存力でない力$F_{x}’$も含まれる場合($F_{x}=F_{c,x}+F_{x}’$)
保存力でない力(非保存力)とは式(18)や式(24)の保存力$F_{c,x}$以外の力のことでこれを$F_{x}’$で表現する。質点に$F_{c,x}$と$F_{x}’$が働いているとき力$F$を
\begin{gather}
F_{x}=F_{c,x}+F_{x}’ \tag{28}
\end{gather}
のように2つに分けて考える。
これを一般力の定義式である式(14)に代入すると一般力は
\begin{gather}
Q_{x}=Q_{c,x}+Q_{x}=-\frac{\partial U}{\partial q}+Q_{x}’ \tag{29}
\end{gather}
と表せる。ここで$Q_{x}’$は保存力ではない力$F_{x}’$に対応する一般力を表し次のように定義する。
\begin{gather}
Q_{x}’=F_{x}’\frac{\partial x}{\partial q} \tag{30}
\end{gather}
式(29)の一般力$Q_{x}$をスカラ方程式、式(16)に代入すると
\begin{gather}
\frac{d}{dt}(\frac{\partial T}{\partial \dot{q}})=-\frac{\partial U }{\partial q}+Q_{x}’+\frac{\partial T}{\partial q} \tag{31}
\end{gather}
式(31)の$Q_{x}’$以外の部分は式(19.5)と同じ形であるため、そのままラグランジュ運動方程式、式(23)になる。
したがって$Q_{x}’$を含む場合のラグランジュ運動方程式は
\begin{gather}
\frac{d}{dt}(\frac{\partial L}{\partial \dot{q}})=\frac{\partial L}{\partial q}+Q_{x}’\tag{32}
\end{gather}
で与えられる。ここのラグラジアン$L$は式(21)と式(25)、どちらでもいい。
一般運動量の再定義
ラグランジュの運動方程式(32)の右辺は力に関する項であり次のように示せる。
\begin{gather}
\frac{d}{dt}(\frac{\partial L}{\partial \dot{q}})=-\frac{\partial U}{\partial q}+Q_{x}’+\frac{\partial T}{\partial q} \tag{33}
\end{gather}
具体的には
である。
ニュートンの運動方程式は、、、運動量の時間微分は力である、と言っている。
このアナロジーに基づき、ラグランジュの運動方程式を導いたため式(33)の左辺を一般運動量の時間微分とみなすのが自然。
したがって、一般運動量を次のように定義しなおす。
\begin{gather}
p = \frac{\partial L}{\partial \dot{q}} \tag{34}
\end{gather}
この定義は式(9)の一般運動量$\frac{\partial T}{\partial \dot{q}}$を拡張したものと解釈できる。
式(34)の一般運動量を使うとラグランジュの運動方程式、式(23),式(32)は
\begin{gather}
\begin{cases}
\frac{dp}{dt}=\frac{\partial L}{\partial q}\\
\frac{dp}{dt}=\frac{\partial L}{\partial q}+Q_{x}’
\end{cases}\tag{35}
\end{gather}
と表せ、一般運動量の時間微分は力であることを表している。
参考文献
以下の本はガチで分かりやすい。
ラグランジュの運動方程式は解析力学に部類されるが、 力学の延長線上で学ぶと散逸エネルギーや外力に関する記述まで入っていないことが多い印象(自分が調べた限り)。 一方で解析力学の本を調べるといきなり一般化座標やラグラジアンの説明から始まる(量子力学を意識して書かれることが多いらしい)。 しかしこの本はニュートンの運動方程式(古典力学)からの延長で、なぜ解析力学が求められたのか、ニュートンの運動方程式のデメリットは 何なのか、から話してくれます
(古典力学と解析力学の橋渡し的な)。
工学系のための解析力学, 河辺哲次, 裳華房,2012
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